日本では妊娠初期に起こるつわりに対して基本的にひたすら耐える
ってイメージがあるんだけど、
先日このようなTweetが話題になっていたので気になって調べてみた。
【オンダンセトロンの適応に妊娠悪阻も追加して欲しい】
— Ayako Shibata@LINEボットで妊娠や性相談 (@ayako700) September 2, 2021
2日前にやーーーーーっっと術後嘔吐にオンダンセトロンが適応追加になったのですが、悪阻にも安全に使えるってデータでてます。
妊娠初期のつわり、めちゃくちゃしんどいので、適応追加してください!https://t.co/rA1Se9PU6Y pic.twitter.com/29HOukJBtQ
Tweetの主旨は妊婦さんにも安全に使用できるつわり止めの薬として
「オンダンセトロン」を適応追加して欲しいってもの。
つわりのガイドライン~日本の場合~
日本では「つわり」のガイドライン(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会)があって
まずは心身の休養、食事の頻回摂取、水分補給と、
この辺は素人でもとっさにできそうな対処が並ぶ。
脱水の症状がひどい場合は点滴となり、
ウェルニッケ脳症予防のためにビタミンB1の添加が行われる。
またビタミンB6がつわり症状の緩和に有効性を示すとして欧米では広く推奨されているも、
有効性が確立されておらず日本での推奨度は低め。
要するにビタミンB1は欠乏を防ぐための追加であり、
ビタミンB6も妊婦さんの体重や症状によって調整が必要ってことで
これだけでつわりの対処とするのは確かにちょっと厳しそう。
つわりで生活が著しく制限される場合
それでも「つわり」が治まらないとか、
つわりが酷すぎるって場合に投薬という選択肢が浮上する。
プリンペラン(ドーパミン拮抗薬)
投薬の第一選択肢として挙がりやすいのが、どうやらプリンペラン。
件のTweetのリプにも何件か「プリンペラン使いましたが~」って方がいらっしゃいました。
アメリカでつわりの時に処方してもらいました。日本から持って行ったプリンペランは効かなかったですが、オンダンセトロンは確かに効きました!ただ高価ゆえなのか、わたしの保険では1ヶ月の処方錠数の上限があり、それを超えたら自費(一錠50ドル程度だった記憶)で購入でした。
— ときどき (@amenohidokusho) September 3, 2021
ただ、同じくらい「プリンペランじゃ効かない」って方が多い(^^;)
まぁプリンペランが効いた人はそもそも、このTweetに反応しないでしょうから
投薬の選択肢が増えてプリンペランじゃ効かなくても、
「次はコレ試してみましょうか」と提案してもらえるようになるとありがたいよね。
プリンペランは妊婦有益性投与とされていて、
「治療の有益性が危険を上回ると判断される場合にのみ投与する」、
つまりは主治医に相談の上判断してもらうのが望ましく、比較的安全という観点から
第一選択肢となりやすい。
オンダンセトロン(セロトニン5-HT3受容体拮抗薬)
さてオンダンセトロン、こちらも「妊婦有益性投与」なのだけど、
妊婦さんへの使用経験が少ないことから、他の薬が効かなかった場合に用いることが望ましいとされており
日本では「つわり」に対する投薬の第一選択からは外れている。
具体的な商品名でいうとスイスのノバルティス社から発売されているゾフランがそれに当たる。
実はこのオンダンセトロン、日本では抗ガン剤の副作用による吐き気には昔から適用されており、
さらに2021年8月30日、ほんの1週間前に「術後の消化器症状(悪心、嘔吐)」への使用が追加適用されたばかり。
ただ、海外では妊婦さんのオンダンセトロン使用に対する研究が出てきており、
日本でもつわりがひどい妊婦さんへの追加適用を検討して欲しいって言うことが
先日話題になっていたTweetの意図だった模様。
海外のオンダンセトロンへの評価
2015年の段階では米国産科婦人科学会(ACOG)が11年ぶりに「つわり」に関するガイドラインを更新し、
ふむ、米国でも慎重な姿勢は変わらないようですね。
1960年代のサリドマイド薬害の記憶もあるから当然かも。
しかし近年オンダンセトロンに対する研究が進み、
出生時に欠損が生じるリスクは低いという研究成果も出ている。
NBDPS(National Birth Defects Prevention Study:出生時欠損に関する米国最大研究機関の1つ)と
ボストン大学スロン疫学センターの出生時欠損研究では
それぞれ6,751人と5,873人の対象妊婦と14,667件と8533件の妊娠初期の吐き気と
妊娠の嘔吐を分析に含む。
対照群の女性ではオンダンセトロンへの暴露は2000年以前の1%未満から
2013年から2014年には13%に増加。
(中略)
特定の出生時欠損の大半について、治療しない場合と比較して
吐き気や妊娠の嘔吐治療のための妊娠初期のオンダンセトロン使用に関する
リスクの増加は無かったが口蓋裂と腎欠損またその発育不全には
さらなる研究を必要とする。
Parker, Samantha E. PhD; Van Bennekom, Carla MPH; Anderka, Marlene ScD; Mitchell, Allen A. MD; for the National Birth Defects Prevention Study."Ondansetron for Treatment of Nausea and Vomiting of Pregnancy and the Risk of Specific Birth Defects".Obstetrics & Gynecology. August 2018 - Volume 132 - Issue 2 - p 385-394
さらに近年の研究結果がコチラ。
オンダンセトロンによる治療は他の制吐剤と比べて
胎児死亡、自然流産、死産、または主要先天性奇形のリスクの増加と有意に関連していなかった。
Colin R. Dormuth, ScD; Brandace Winquist, PhD; Anat Fisher, MD, PhD; et al."Comparison of Pregnancy Outcomes of Patients Treated With Ondansetron vs Alternative Antiemetic Medications in a Multinational, Population-Based Cohort".JAMA Netw Open. 2021;4(4):e215329.
まとめ
日本ではまだオンダンセトロンは「つわり」へ適用されていませんが、
海外では研究成果が整いつつあるようです。
「つわり」が酷すぎる場合の選択肢として日本でも使えるようになるといいなと思います。